分かり合えないのはなぜか。VR眼鏡と「繭の外」で相手と出会う
「相手の立場に立って考えよう」と思っても、気づくと自分の考えで相手を判断している。話し合っても、なぜか平行線のまま終わる。そんな経験はないでしょうか。
先に結論をお伝えします。分かり合えないのは、あなたの努力が足りないからでも、相手が頑固だからでもありません。誰もが、自分の観点というVR眼鏡をかけて、その中から相手を見ているからです。だから、相手の立場に立つための最初の一歩は、相手を想像することではなく、自分の眼鏡に気づくことです。
この記事では、その仕組みと、自分の観点の外に出て相手と出会い直すための3つのステップを紹介します。
誰もが、自分の繭の中から相手を見ている

人は誰もが、自分の観点というVR眼鏡をかけて生きています。生まれてから今日まで、その眼鏡に映る画面しか見たことがありません。隣にいる人とも、1秒たりとも同じ画面を見たことがないのです。
さなぎが繭の中にいるように、私たちはそれぞれ自分の観点の中から外を見ています。そして、自分の画面を「現実そのもの」だと思っています。この比喩の背景は「環境や人を変えても、同じ人間関係を繰り返すのはなぜか」でくわしく解説しています。
相手の言葉を、自分の繭の中で判断してしまう
繭の中にいると、相手の言葉は、そのまま届くのではなく、自分の観点の中に取り込まれてから判断されます。しかも、それは無意識に、反射的に起きます。
たとえば、職場ではこんなすれ違いがよくあります。
- 上司に「急ぎでお願い」と言われ、自分の画面では「今日中」だと受け取る。上司の画面では「今週中」のつもりだった
- 同僚が「大丈夫です」と言ったので、自分の画面では「手伝わなくていい」と受け取る。同僚の画面では「本当は声をかけてほしかった」
- 会議で反対意見を言われ、自分の画面では「否定された」と受け取る。相手の画面では「よくするための提案」だった
どれも、どちらかが悪いわけではありません。人の観点には、どれも完全ではないのに、自分の観点だけは無意識に完全だと思っているという特徴があります。お互いが「自分の受け取り方が正しい」と思ったまま話すので、話すほど平行線になるのです。
「相手の立場に立つ」がうまくいかない理由
すれ違いに気づいたとき、多くの人は「相手の立場に立って考えよう」とします。けれど、ここに落とし穴があります。
相手の立場を想像するとき、想像しているのは自分の眼鏡越しに見た相手です。「自分が相手だったらこう思うはず」という想像は、結局、自分の繭の中で組み立てたものです。だから、想像しても相手の画面には届かず、「ここまで考えたのに分かってもらえない」という気持ちが残ります。
相手の画面に近づくには、順番が逆です。先に、自分が繭の中にいることに気づく必要があります。
繭の外に出る3つのステップ
相手とのやり取りで心がざわついたら、次の3つを順番に試してみてください。紙に書くと、より分かりやすくなります。
1. 自分の画面を「私にはこう見えた」と書く
「否定された」ではなく、「私には、否定されたように見えた」と書きます。主語を付けるだけで、それが事実ではなく、自分の画面に映ったものだと分かります。
2. 正しいかどうかの判断を、一度置く
自分の受け取り方が正しいのか、相手が間違っているのかを、いったん決めずにおきます。何も決めつけていない状態に戻ることが、繭の外に出る準備になります。
3. 相手の画面を、質問で確かめる
想像で埋めずに、相手に聞きます。「急ぎというのは、いつごろのイメージですか」「さっきの意見は、どんなところを心配してのことですか」。答えを聞いたとき、初めて相手の画面に触れることができます。
3つ目の質問は、相手を責めるためではなく、相手の見ている画面を知るためのものです。言い方に迷ったら、「私の受け取り方が合っているか確かめたくて」と一言添えると、伝わりやすくなります。
繭の外で、本当に出会う
誰もがVR眼鏡をかけていて、1秒も同じ画面を見たことがない。そう聞くと、少し寂しく感じるかもしれません。
けれど、分かり合えない構造は、終わりではありません。自分の観点を自覚して、一度その外に出てみると、相手の観点に移って見ることができます。そのとき初めて、相手と本当に出会うことになります。分かり合えない構造は、出会いの入口です。
認識デザインラボの入門コースでは、自分の観点を自覚し、相手の観点に移って見ることを理解します。ただ、気づくだけでは日常で元の観点に戻りやすいので、観点の外に出る練習をするのが初級コースです。自分の眼鏡は自分では見えにくいため、一人で難しいと感じたら、言葉にして整理する場を使うのも一つの方法です。
まとめ
- 分かり合えないのは、誰もが自分の観点というVR眼鏡の中から相手を見ているから
- 相手の言葉は、自分の観点の中に取り込まれ、無意識に判断されている
- 「相手の立場に立つ」想像も、自分の眼鏡越し。先に、自分が繭の中にいることに気づく
- 「私にはこう見えた」と書く → 判断を一度置く → 相手の画面を質問で確かめる、の3つで繭の外に出られる
- 分かり合えない構造は、本当の出会いの入口になる
見え方が脳によって作られている仕組みは、「見ている世界は絶対ではない。錯視で分かる「脳の4つのクセ」」で、一枚の図を使って紹介しています。
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※認識デザインラボのセッションは、医療や心理療法ではありません。眠れない、食欲がない、気分の落ち込みが続くといった状態がある場合は、医療機関にご相談ください。職場でのハラスメントが疑われる場合は、社内外の相談窓口にもご相談ください。